第2回 (2013.10.24)

Stryerの第3章 "Exploring proteins and proteomes" を扱います。

 

この章の内容は、日々進歩しています。

・マススペクトロメトリーを駆使した構造解析技術の発展

・データベースの充実

がアミノ酸配列の推定・決定に関する考え方と基本プロトコールを大きく変えてしまいました。そのマジックの一端を紹介できればよいなと思います。

 

講義では、私が体験した「手動」エドマン分解の話をしました。さすがに私の歳では、学生時代でも既に自動のペプチドシークエンサーは導入されています(事実、同期はこの機器でデータを出していた)。当時は時間がかかって少々面倒だと思ったのも事実なのですが、今、講義をする立場になって思うと、PTHアミノ酸を1段ずつ決めたという経験は、貴重だったと思います(下記)。

ペプチドの構造決定は、時にパズルの要素をもっています。最近読んだ本に、全精力をかけて構造決定に臨んだ研究者達の姿が活き活きと描かれていました(「新薬に挑んだ日本人科学者たち」)。

 

今ではほとんどの試料がマススペクトロメトリーによって解析されます。1994年頃に「マスでアミノ酸配列がすいすい決定できるかもしれない」といわれ、「へ!?」と応えたことがあります。本当にこの分野は隔世の感があります。

 

=====

 

講義では手動エドマン分解の体験談を紹介しました。学部4年生のときに、プロテアーゼで限定分解したヒトIgG1イムノグロブリンのサンプルを携え、都立大学前にあった都立大の奥山典生先生の研究室を訪ねました。普通の学生だった私は、1日3段のアミノ酸配列の決定がやっとでしたが、それでも、文献に書かれていたのと同じ位置で切断を受けているという、4年生にしては珍しくクリアなデータを得られた嬉しい思い出があります。 

奥山先生と面談の機会がありました。先生は、二次元電気泳動(←講義に出てきた)でヒト血清蛋白質(免疫グロブリン分子だったかもしれない)をひたすら展開・分析するという研究の話をされていたと思います。そして「で、これをやると何がわかると思います?」と問いかけられました。4年生はただ困惑しました。 

未だに正解はわかりません。解釈のひとつは、ヒトが今までどのような外来抗原にさらされて生きてきたか、という歴史(病歴?)、あるいは特定の疾患にかかりやすい/かかりにくいという状態が血清内の抗体分子のレパートリーに反映される、これが二次元電気泳動などの分離手法で解析できるということではないかと思います。いわば「抗体分子に特化したプロテオーム解析」というところでしょうか。当時はコンセプトとしての網羅的解析だったと思いますが、現在ではウイルス、細菌、癌組織、自己免疫疾患の抗原蛋白質などのチップ化、特定の抗原蛋白質に結合する抗体を有する患者さんのB細胞に由来する抗体遺伝子の増幅、などなども可能になっており、網羅的解析の一部は現実化しています。

 

でもそれだけですか?と奥山先生には言われそうな気がします。謎かけされて20余年、未だに時々考えさせられます。