第4回 (2014.1.16)

前回(糖質に関する講義)の追加と第24章 The Biosynthesis of Amino Acidsを取り上げます。

 

2糖の繰り返し構造からなるグリコサミノグリカンは、ちょっといかめしい名前に聞こえるかもしれません。ヒアルロン酸・コンドロイチン硫酸等の名前を聞く機会が多いと思いますが、これらもグリコサミノグリカンの一種です。講義では、疾患や様々な生命活動におけるこの巨大な糖鎖の役割を紹介します。

 

今までの講義では、アミノ酸・蛋白質と糖・糖鎖を別々に扱ってきましたが、アミノ酸と糖はTCAサイクルを経由する代謝経路を介して間接的に「繋がって」います。両者の繋がりの鍵となる代謝経路を紹介します。細胞が増殖したり様々な機能を発現するためには、ATP以外にも様々な代謝産物が供給される必要があります。この代謝経路の概要にもふれたいと思います。

 

=====

(2.6記)

STAP細胞に沸く一週間でした。学生から「すごい論文です!」というメールが来たり、あちこちで先生方が講演などでエキサイトしたり(私も同類か?)、盛り上がりを見せています。幹細胞の素人の私ですが、以下3点コメントします。

 

1.原文を読もう!

Nature の論文は「論文」として書かれています。ニュース性のある課題であることは確かですが、原文を読むと論理的によく構築され、様々な可能性を「これでもか!」と検証していることがわかります。導入部には植物と動物の分化全能性の違いに関するコメントが書かれています。脾臓リンパ球を主な実験系に据えていますが、誘導効率が高いこともさることながら、この系のよいところのひとつはT細胞受容体β鎖の再構成の保持が、「分化を終了した細胞がリプログラミングされた」ことを効果的に示すことができる点だと思いました(次学期の免疫学で登場します)。STAP細胞自身はほとんど増殖しないこと、特殊な培地を用いることでいわゆる「実用に堪える」増殖能を有するSTAP幹細胞を誘導できることも示されています。

原文は読みやすくお薦めですが、理研のプレスリリースもとても充実しています。

http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140130_1/#note16

 

2.関連の仕事にも関心を持とう

この論文の共著者として登場する若山先生はクローンマウスの作製を成し遂げた研究者として著明な先生です(「リアルクローン」という本を読んだと思う。原著はNature 394(6691):369-74,1998)。若山先生を含めた研究者の確かな技術と研究の蓄積があってこそ、この仕事が花開いたのだと思います。

私が今回の報道をきいて真っ先に思い浮かべたのは、ストレス耐性の組織幹細胞(Muse細胞)です。Muse細胞がもっと世にでてくるといいですね、という話をしていた矢先の出来事でした。東北大学・出澤先生の研究は「ストレス耐性の細胞」を分離することにより多能性幹細胞が濃縮される発見に端を発しています。実験条件どうだったっけ、と改めて見直しました。組織幹細胞の研究者の見方では、幹細胞は組織にもともと「ある」ので、それを濃縮・分離するというアプローチになっており、reprogrammingの発想とは異なるのだな、と思いました。

Unique multipotent cells in adult human mesenchymal cell populations.  Proc Natl Acad Sci U S A. 107(19):8639-43 (2010)

 

3.様々なストレスを回避して生き残ることができる癌幹細胞の論文を読もうとしましたが、読み込めていません。癌幹細胞の形質をもつ細胞がもともと少数存在しているという立場からの研究が進められています。一方、低酸素環境、放射線照射などの「ストレス(?)」で新たに幹細胞が出現することがある、との見方もあったと思います。夏学期講義には間に合わせたいです。

読んでいた総説の中に以下のことばを見つけました。

What does not kill me makes me stronger. (By Nietzche)

今回はさしずめ

What does not kill them makes them pluripotent.

でしょうか。

「きつい」と感じられる生活環境の先に多能性が見つかるのかもしれません。もうちょっと頑張りますか・・・。